人は、何重にも嘘を重ねて生きる生物だ
私は、君と過ごしたあの僅かな時間だけで
一体幾つの… 嘘を吐いてきたのだろう
あの時死にたかったのは本当だけれど、
生きることを許してくれるのなら――― 未だ本当は、この熱を保っていたかった…
君が優しい言葉を言う度に、それを受け入れてしまうと…
生きたいと 願ってしまう自分がいた
だけど君は全て、気付いてくれていたね
そう、私という存在にさえ ―――
【007:I can't have been able to say】
また…たったの2時間で目が覚めた。
薄暗い部屋は監視の目があるわけでもなく、空気も外ほど淀んでいない。
敵地や戦地とも程遠いし死体が眠る地下からも随分離れている。
それでもこんなに気分が落ち着かないのは何故なのか。
眠っても眠っても、安息の箱船から首を掴まれ何かに引きずり出されるような感覚…。
「………駄目だな…」
…ソファから起き上がり、俺は横着してそのままデスクに手を伸ばした。
煙草を1本、手に取る。―――今ので箱が空になった。買い置きも無い。
…やってしまったな。吸いすぎのサインだ。今日はなるべく控えるか…
俺の部屋は全体的に蒼と灰が暗く塗られたように彩られていて、
あまり物がないのも手伝ってか…いつも何処か寒々しく見えた。
あながち暗い海の底にいるのと同じような感覚。
…だが呼吸は出来る。いつも。
……そう、今は… その呼吸さえもが、落ち着かない。
胸にニコチンを強く入れて、蒼と灰に吹き付けるように煙を吐いた。
…ベッドの上ではまだ、紅い髪の少女が落ち着いた呼吸を取り戻して眠っている。
……この雰囲気でゆくと人魚か。いや、あんな不躾な人魚姫がいてたまるかと思うが。
静かに俺は立ち上がった。
脱ぎ捨てて転がっていたブーツに足を入れ、音を立てぬように歩く。
時刻はまだ、着けたままの左手首の時計で早朝4時半…。
最も蜘蛛達が狂喜し盛んに動き回る時間帯だ―――。
ヤクの密売密輸、取引、ヘヴンの粗悪団体と通じようとする奴らもいる。
よって場合によっては蜂は、この時間に活動を必須とする時も有る。良い迷惑だ。
主に被害に遭うのは勇午等、監察。奴らの事を探る故に。
時計を見ながら、また音を立てぬように…部屋の入り口の扉を開け、外へ出る。
ひやりとした早朝の空気は昼間よりは些かマシとは言えるだろうが、
やはり其れも、ヘヴンの空気と比べたら毒ガスと大差無いのだろうと思う。
朝から深呼吸することさえも出来ない世界。
斜め前方に位置する部屋のドアを見やって、ゆっくりとそちらへ向かった。
カズに宛われている部屋だ。
冷たいドアノブに手を掛ける。鍵は…… 掛かっていた。
もう戻ってきて眠っているのか。…それともまだ戻っていないのか…?
その前で俺はしばらく沈黙し、そっとドアに耳を当てた。ヒヤリとした感覚に耳が怯える。
…静かだ。……分からないな。迷惑の掛からぬ程度のノックもしたが、反応は無い。
その静けさに、普段抱いたりはしないような不安がよぎる。
やはり何かあったか…? ―――また呼吸が…俄に落ち着かない。
俺はチームのメンバーに、仕事完了・帰省報告を必須としていた。
…勿論此を守らない聞き分けの悪い奴もいるが(当然の如く零とか)、
カズは…何があっても俺を裏切らず、俺の意見を支持し守ってきてくれた友だ…
仕事の事も帰省の報告も、抜かりなく俺に届けてきた。
例え、こんな時間であろうとも。
……それを考えると、やはりまだ戻っていない、と言うのが最も安直で正しいと思う。
しかし連絡を取った時御上は、“日付が変わるまでに報告の蜘蛛を回収する”、と言ったはずだ…
それなのにカズが未だ戻らないと言うのは…
御上が何かやらかしたのだろうか?
それとも…… カズ自身に、途中、蜘蛛絡みで何か起きたのだろうか…?
例えば… 他地区の蜘蛛の動きを察知し、それを自己判断のみで尾行している、とか…
「…………」
蜘蛛が盛んに動き回るこの時間帯から考えると、十二分にあり得る。
その上アイツは腕もある監察だ。歴で言ったら勇午よりも断然長いし、判断力もある…
「だったら其れは其れで、報告を入れたらどうなんだ…」
そんな独り言を毒素の空気に吐きながら、自分の部屋に戻りウィグを確認する。
そして其れを見てまた不安は増大した。…薄っぺらな電子パネルには、着信も履歴も何もない。
…苛立ち混じりに其れを手に取り、カズのウィグへと繋いだ。
不安要素が蓄積すると、人の胸には苛立ちと焦りが募る。
―――そして真っ当な判断を下す思考も狂ってしまう…
落ち着け、と自分の中の芯に言い聞かせた。
ジーッ、と、鈍い電波音が不快を通り越して耳元で響く。
パルプの中だというのに此の電波の悪さは一体何事か…
…言い聞かせも無駄だった。目を閉じて、俺はとうとう小さく舌打ちをした…。
アングラで電波が通るという事は、若干奇跡に近い。
電波というものは当然、宇宙に浮かぶ人工衛星を通じて流れる物だからだ。
…クイーンと云う鉄の水平壁が天と大地を塞ぐ此の世界では、
其れを使用できるのはヘヴンの人間に限られていた…。
アングラに電波が流れるようになったのは、この2・3年の最近の話だ。
ではどのようにアングラで電波が使えるようになったかと云うと、
星の何処ぞで、電子の塊である原石が発見されたらしい。
それを大地からクイーンを支えている「塔」に使用したそうだ。
それから蜂の本拠地となる、パルプにも。
いわゆる「アンテナ」の様な役割で、電子の原石を置かれている。
…以来このアングラで、ウィグ(「ウィング」の意味らしい。つまり蜂の「羽」という事だ)が使われるようになった。
クイーンを支えている塔付近、及びパルプ内からはヘヴンにも連絡が取れるようになった。
だが同時にこの「便利」は、蜘蛛達にも利を与えた。当然だろう。
蜂がウィグで連絡を取れるのだ、蜘蛛達だって似たような機具で誰とでも連絡が取れる。
結局、便利などという進歩や進化は何も解決に導きやしないんだ。
現に今だって―――…
「…………クソ、」
カズのウィグに反応は無い。
ジーッ、と、ただひたすら…雑音混じりの電子音が続くだけ。
1度通信を切り、そのまま違うパターンへと繋いだ。
安息の箱船が、荒波に呑まれるように不安に揺れる―――…
『はい、こちらガヴァメントオペレーターです。アンダーグラウンド電波を受信いたしました。IDナンバーをどうぞ』
「SDA・UGB-061901」
『…認証中です。…認証いたしました。SOLDDIA6番街19地区団員01、お名前を確認いたします』
「Hideto-Asagiri」
『確認いたしました。こちらオペレーター405番と申します、ご用件をどうぞ』
ガヴァメントオペレーション。その名の通り、御上の電話口だ。
コンピュータのような丁寧な口調の女性が、名も言わずに対応するシステムだ…
蜘蛛の処理を頼むのも、仕事についての全ての連絡路は此処を通じて行われる。
―――俺達蜂が直接御上の連中と話が出来るのなんて、年に1度か2度ほどだ…。
「昨晩、第6中央塔付近にて蜘蛛の引き取りをお願いした。状況を訊かせていただきたい」
『了解いたしました。…………6番街19地区組織より要請された第6中央塔付近の蜘蛛は、本日00時02分、
ガヴァメントビーにより回収が済んでいるとの報告がされております。総数17体、内 1体が死体。
死体の死因は、頭蓋骨に銃弾が撃ち込まれている事と見られております。弾の種類をお答えいたしましょうか』
「…いや、結構だ…。監察が1人見張りに付いていたはずだが、見ているか?」
『お待ち下さい。報告書を検索いたします』
この場で使用される…ガヴァメントビーという言葉が、いつも気にくわないと思っていた。
「ガヴァメントビー」、つまり政府直属の蜂、だ。
では俺達は何かと云うと、「アンダービー」。汚い仕事用の蜂、だ。
こんな所にもクイーンの作った上下の世界は存在している…。
『お待たせいたしました。見張り役及び蜂団員と見られる者の姿は確認できなかったとの報告です』
「―――……!」
なんだと?
ではカズは、御上が蜘蛛達を引き取りに来た00時には既に…あの場に居なかったというのか?
どう言うことだ… 何故だ…? 何があった…!!
『注意不充分として、6番街19地区蜂団員全員に厳重注意警告が出ております』
「………了解、しました…」
『他にご用件はございますか』
「…いや」
『かしこまりました。同件で何か御座いましたらオペレーター405番でお呼び付け下さいませ。失礼いたします』
ブッ!、と…縄でも切れたのではないかと思うような音で、電波が途絶えた。
繋いでいた友の手が断ち切られたような感覚―――。
ガヴァメントオペレーションに連絡を取ればカズの事が何か少しでも分かるだろうかと、
そんな甘い懸念心であったのだろうか俺は。自分に嫌気がした。
クソ…! もう残された手段は、自分の脚と自分の目だけだ。
現場に赴くしか有るまい…それで何も掴めないようなら蜘蛛を片っ端から掴まえ、吐かせてでも―――。
焦る自分の思考は、どんどん残虐敵になる事を知っている。
そう、“殺さず”を忘れそうになるほどに。
そして少し前から背を刺していた視線にも、当たるようにして言葉を投げた…。
「…盗み聞きか。…存外、趣味の悪い女なんだな」
言って直ぐに後悔する。女に嫌味をぶつけるような事をして… 最悪だな。
ソファの背に投げてあったジャケットを肩に担ぎながら俺は振り返った。
「―――。……五月蠅かっただけだ。頭に響く…」
それは悪かったな。……いつの間に目を覚ましていたのか。
しかし俺はそんなに大袈裟な声量で話をしていただろうか?
…其れが関係しているのかしていないかは分からないが、
昨日から何度も…少女が額を押さえている仕草を見ている気はした。
上半身だけをベッドから起こして、少女は「つ…」と声を漏らす…。
胸元まで掛かる髪が、サラリ…と、肩から前へと流れ落ちた。
「……頭が痛むのか…」
「…………」
米神の辺りを押さえながら、少女はぎゅ、と目を瞑っていた。
…相当辛そうに見えたが、生憎部屋に鎮静剤など置いてはいない…
悪いが俺にしてやれるのは、気休めくらいだ。
「…まだ身体が空気に慣れていないせいだろう。もう少し寝ていろ」
「………」
「それとも何か食うか。…何も食ってないんだろう?」
「………」
「と言ってもアングラの食い物なんて、ヘヴンの物に比べたら酷いだろうけれどな」
少女は俺の言葉を聞いてか否かは分からないが、
額を抑えたまま目を伏し、顔を左右に振った。…その顔は酷く疲労の色が伺える。
…眠れなかった、というワケでは無いだろう。
きちんと呼吸も出来ていた、深く眠っている呼吸音だった…
ではその疲労は何かと問えばそれは十中八九、気疲れと戸惑い、
そして食欲不振と栄養失調…であろう。無理にでも何か食った方が良い。
でないと包帯の下の怪我も治らないだろうし、体力も削られる一方だ…。
「今のは…ガヴァメントオペレーション…か?」
「…、分かるのか」
「…………嫌なほど」
「…………」
「私のことを連絡しているのだと思った…」
だから目が覚めた、と呟く。御上にトラウマが有るというのだろうか?
だとしたら単純だ。何故アングラに来たのか憶えていないと言ったが、全て嘘だろう。
やはりこの少女は罪人としか思えない。俺は左腕の時計に目を向けた。
…4時50分… 蜘蛛の活動が目立たなくなるまでまだ少し…あるな。
緩めていたネクタイを更に下へと伸ばし、俺はベッドの直ぐ横まで歩み寄った。
駄目元でもう1度…吐かせるだけ吐かせてみようと試みる。
「やはりお前…罪人だな?」
「…………」
「もう御上で裁判は済んだのか。…罪名は。判決は」
「…………」
「…何も言わないなら早い内に御上に連絡を取る。…引き取りに来させるぞ」
「………、」
勝負に出るには早すぎるが、俺はわざと冷たくそう言い切る振りを見せてみた。
すると少女は額を抑えていた手を下ろす。目に見えて少女の顔に、凍り付くような力が入った。
ただでさえ白い顔だというのに、其れは正しく蒼白。…部屋の暗さと似た、寒さの色。
…だがそれ以外は何も反応を見せなかった。
「それだけはやめてくれ」とでも言いそうな表情だったのに、何も… 何も、言わない。
「……良いのか。連絡するぞ」
「………」
キュ、と…血色の悪い唇が真一文字に強く引き締められる。
昨晩幾度と黙る度に見せた顔だった。…そんな表情さえをも「綺麗だ」と思わせるこの女の魅力は何なのか…。
…徐々に視線を落とすように瞼だけを俯けさせると、更にそれは増して見えた。
綺麗な女。
「………好きにしろ…」
…ぽつり、と… 雨の滴が落ちるように呟く。
淋しい声だった。……感情のない、声だった…。
零の「感情の無い」とは違う。 零は「非道」という印象だ。
だがこの少女のこの感情の無さは―――
まるで空虚。 穴が空いているような感覚…
「……お前、脱獄囚なんだな…?」
言い切って良いだろう…ヘヴンの人間がアングラへ来る、まずその時点で決定打だ。
だが俺は此と言って優しい言葉を掛けることもしなかった…。
そして少女も相変わらずまた、YesともNoとも何も言わないつもりの様だ。
核心は突いたのに、俺の言葉にその開いた唇はまた再び閉ざされる。
一体どんな罪で投獄され、どういう手段で逃げ出してきたかは知らない。
だが…莫迦な事をしたものだ、とは言わずにはおれなかった。
「罪人の脱獄は、既に判決が降りていた場合罪の重さが3倍ほど跳ねる」
「―――……」
「其れを知っていて脱獄してきたのか?」
常識だぞ、と付け足す。
…そう、例えば判決が懲役3年の罪だったとする。
其れを降された後に脱獄・逃亡を図ると、懲役は単純に9年に延びる。
10年なら30年、30年なら90年。無期懲役なら確実に死刑。
少女は視線を泳がすこともなく、俺の言葉に対し終始無言で無反応。
…それは「知っている」と取って良いと思えた。
罪名・判決が重くなるのを分かっていて逃げてきた、とな…。
「莫迦か。……軽い罪も場合によっては無期懲役にまでなるぞ」
俺がそう罵ってやると、分かっている…と、唇を震わせて少女は今度は顔ごと俯いた。
また額に手を当てて… 頭痛に耐えようとする表情になる。
…分かっているなら何故脱獄などしてきたのか。逃げ切れるとでも思っていたのか?
其れこそ本当に莫―――
「五月蠅い…貴様に何が分かる…」
「…………」
力の入った唇の端が、赤く充血する。
その姿が惨めにも、哀れにも、見える。
…もう少し強く噛んだら其の唇が切れてしまう程の力の様に… 見えた。
…そうだな… 俺には確かに、何も分からない。
「……だったら少しはお前の素性を話して貰おうか」
「貴様に関係無い…」
「いったいヘヴンで何をしてきた」
「……」
「お前まだ16・7だろう?何をした…」
「…………」
額に手を当てたまま…ぎゅ、と目を瞑り、辛そうな表情をする。
微かに肩が上下し始めているのにも気付いた… 呼吸速度が乱れている。
苦しいのか。…いや、其れにしてはやはり肺よりも頭部の方が痛みを訴えているように見える。
ギリ、と、…今度は微かに開いた唇から、奥歯に力が入るのが分かった。
「…そんなに痛むのか」
「…………つ…―――ぅ…」
「………大丈夫か」
俺は溜息を押し殺し眉間にしわを寄せながら、ゆっくりと少女の直ぐ側まで歩み寄った。
額を押さえている手が震えている。…本当に、その指先まで綺麗な女―――。
「…辛いなら横になれ…、話さえ出来れば何でも良い」
「……るな…!」
「…何?」
「触れるな…」
「―――…だがお前、」
「お前と呼ぶな!!!」
肩を支えてその細い身体をベッドに寝かせようと… 少女に触れようとした瞬間だった。
…キッ、と、…紅と黒の吊り目が必死に怯える獣のような眼差しで俺を睨む。
優しさに甘んじようともしない。自己を語ろうともしない。
…だが俺を貫かんとするその両の眼。…その儚いながら凛とした強さが…美しい。
何故だろうか。
こんな少女を相手に…俺は何度、手や視線を止められているのだろうか。
隣でカズに、「フェミニストだからだろ?」とでも罵られ笑われたいと思った…。
おかしいだろう―――…
「……悪かった。だがヘヴンの人間にとって此処の空気は毒素その物だ。…無理をするな」
「要らん。関係無い…」
「言うことを聞け。横になれ」
「関係無い…」
…少女は繰り返した。
包帯で覆われた腕が痛々しく震える。…黒く、血が滲んでいた。
「関係無い…」
ハァ…ハァ…と、か細い乱呼吸が、小さく上下する肩と同じタイミングで部屋に響く。
強く額を押さえたまま少女はゆっくりと喉元にも手を添えた。
呼吸音がとても正常と思えない。…気道が狭まっているのか…?
触れるなと言われた背に、俺は躊躇い無くもう1度手を添えた。
その瞬間少女の全身に力が入ったのに気付いたが、気になど留めない。
冷えた背中を、護るようにして右手でさする。
「っ……!」
少女の紅と黒の両目が、何か言いたそうに強く俺を睨んだ。
それでも少女は額を襲う痛みと、上手く機能しない呼吸器の調整に負けて何も言わない…。
俺もまた…何も言う気は無かった。ただその細い背中をゆっくりと上下にさする。
…酷く体温が低いように感じた…俺が触れた部分から、微かに体温が上がるのさえ確認できる。
諦めたように顔を俯け必死に呼吸する少女はまた、俺の手に抱かれたまま小さく震えた…。
その、上手く風の通らぬ喉と頼りない細い肩が……何かを思い出させる。
そう遠くは無い、哀しい… 記憶
“ ―――… デ、 ヒデ、 ”
“ …… にたく、ない… … だ 、 死にたくない…… ”
その背中は、この少女とは違って酷く生温かな熱を伝っていた。
そして逆に徐々に… 冷たくなってゆく。
嗅ぎ慣れていたはずの鼻を刺す生き血の匂いが、あれほど自己を狂わせるものとは思わなかった…
抱き慣れていたはずの身体が、どれだけ脆かったなんて。 知っていたのに、理解できなかった……
幾度悔やんだだろうか。 あの瞬間を―――
幾度憎んだだろうか。 自分のこの手を―――…
“ 助けて… ヒデ…… ”
“ …花蓮… ”
無意識に、俺は少女の背に添えた手に、 力を込めた……