Water×Dragon 
#01 過去の俺は今の君で










           くだらねぇな…。何が楽しいんだ?つまんねぇ…。

                                笑い声が、耳障りで。

       よく笑顔でいられるぜ。見てるだけで疲れるっつうの。笑ってんじゃねぇよ。今の何処で笑えるんだ?
       
    あいつが…転んだだけじゃねぇか。うぜぇ奴等…。虐める奴も、虐められる奴も…両方とも、うぜぇよ…。

      高校生にもなって虐めか。…くだんねぇの。弱々しい姿見せるから虐められるんだよ。
 
        強く生きてりゃ…強く生きてりゃ、虐められる事は無い。それが例え虚勢だったとしても。











    俺は昔虐められてた。原因は女顔だとか色々あった。兄貴のせいで虐められた事もあった。今は一人だ。

          でもそれで良かった。俺は一人の方が性にあってるんだ。きっと…馴れ合う事は許されてない。
 
     小学校の頃は虐められる毎日だったのに、中学に入ったら、虐められる事が無くなった。

      それは俺が髪を金色にしたからだ。中学生で金髪なんて奴はそうそう居ない。
 
             ましてや秀才学校なら滅多に居るもんじゃなかった。でも、俺はそんなレールが嫌いだった。
 
   一つ年上の兄貴は頭を青く染めていた。兄貴も同じ学校で、先公どもに色々言われていた。
 
          でも兄貴は先公の言葉に屈する事無く、青い頭を通し続けていた。
 
        そんな兄貴に憧れて、俺は小学生の自分を変えたくて中学入学と同時に髪を染めていた。

     髪を染めた事は色々と効果があったらしく、先公は煩くなったけど、それと同時に虐められなくなった。
 
            やっとウザイ毎日から抜けられた。そう思っていたのに―――――。








  
               何で高校生にもなって虐めとかやってるんだよ。しかも俺の目の前で。
 
       小学校から同じクラスの奴なんて居なくて、今の俺からは虐められていたとか想像出来ないんだろう。
 
         今の俺は高校入学と同時に髪の毛を青く染めて、長い髪をポニーテールに縛っている。
 
    小さい頃から暗闇に慣らされる為に教育された俺の目は悪くなり、紫色の目の上にコンタクトをしている。
 
      友達をつくろうとも思えない俺は周りの奴等と話さなく、無口になっていた。
 
             そのせいもあってか、俺にはいつの間にか"不良"というレッテルが貼られていた。
 
 不良を目指した訳でもなく家柄喧嘩が強く、髪や兄のせいで目をつけられやすい俺は来るもの拒まずで喧嘩無敗だった。

        遅刻もしょっちゅうだし、早退もしょっちゅうだった。無断欠席も当たり前。

              そんな生活の俺はクラスの話に入れる訳も無く、入りたい訳でも無かった。

     だからと言う訳でもないだろうが、俺の目の前では虐めが繰り返されていた。

           それも……どう見たって小さい頃から虐められ続けているような奴だ。
 
   そんな光景が何日か続いた今日。俺はその虐められている奴と目が合った。虐めに興味は無いが、顔を見たかった。

      普段は下を向いていたりしてよく見れなかったが、今何故か。真っ直ぐ俺の方を見ていた。
 

                虐められている最中に。助けを求める目じゃなく。
 
        小さい頃からかけているだろう眼鏡は落ちて、でも割らせまいと必死に守っていた。
 
          そんな奴を見て、また虐めは激しくなるんだ。
 
                      ったく、どいつもこいつもうぜぇんだよ。俺を見んなよ。









           
 「っきゃーーーーーーーーーー!!」

                  さっきまで笑い声が溢れていた教室には、悲鳴が響き渡った。

      俺が殴った訳じゃない。俺が手を出したんじゃない。俺が殴られていたんだ。…いじめられっこを庇って。

          庇ったのか?別に庇ったつもりは無い。ただ前に出たら殴られただけ。

   この学校には俺に手を出す奴も居れば恐がって手を出そうとしない奴も居る。

                今俺を殴った奴は後者らしかったが、俺が手を出さないのを確認してもう一度殴ってきた。

            
 「っは…所詮水澤も噂だけって事か…?なぁ、水澤!」

                                 「………じゃねーっつの………」

       
 「あぁ?何言ってんだよ!手を出してこないって言う事は、そういう事だろ!ちげーのか……」

                         「…おら…よっ!」

                
 「…っが…はっ……な、ん……?……うぇ…」

                                  「満足?」

          俺を殴った奴…榊は、何が起こったのか判らない様子で俺の目の前にうずくまった。

                 
  「だから言ったじゃねーか。”なめんじゃねーっつの”ってよ」

     例え弱々しいパンチだったとしても、まぁ当たればそれなりに痛いわけで。
 
            更にそれが顔に当たってる訳だから、口の中も切れるわな。

                 って事で、俺は口の中に溜まった血を教室の床に吐き出していた。汚っ…。

        さっきまで虐められてた奴…篠崎は俺の方をぼんやりと眺めていた。
 
              多分俺が助けるとは思っていなかったんだろう。ま、俺も自分で驚いたわ。

      助ける気なんて本当になかったんだっつの。庇うつもりもな。でも…わかんだよ。

          虐められる辛さも…強がりたくても、強がれない自分に対する嫌気も…全部。

                今目の前に座って俺を見上げているのはきっと、俺自身なんだ。

       小学生だった頃の俺自身。誰にも助けてもらえずに居た毎日に、ある日光が射す。

           そんな日を望んでいた。だからきっと俺は篠崎を助けてしまったんだろう。無意識に。

            
 「何だこれは!?オイ、一体どういう事なんだ!?誰か説明しろ!!」

        今更やって来た先公が必死に叫んでいる。其処で誰かが俺の名前を告げたのが聞こえた。

   耳が良い俺は、どんなに騒がしくても声を聞き分ける事が出来る。

                   だから俺の名前を告げたのも聞こえた。誰が言ったのかも勿論分かってる。

         
 「水澤か…お前はどうしていつもそうやって問題を起こすんだ!?えぇっ!?」

       俺のせいじゃねーだろ、これは…ったく、どうして先公どもは問題児って奴のせいにしたがるんだか。

             
 「何か言ったらどうなんだ?え?全く…これだから不良って奴は…」

                          
 「あぁ?」

     ヤバ…切れるぞ、俺。見た目や雰囲気とかだけで決め付ける奴がいっちばん嫌いなんだよ、俺は。

           むしろ真面目そうな顔してる奴の方が恐い存在だろーが。何で気付かないのかね、こいつ等は。

          
  「何だ、その口の聞き方は…そんなんじゃ社会に出てやっていけないぞ!」

       「うっせーよ。俺だけが悪いって決め付けやがって…あんた等こそこれから先やってけねーっての…」

                     
 「何だと!?」

   「まぁ、言って信じてもらえないだろうから何も言わないけどさ。一人が悪いって決め付けない方がいいぜ」


         本音だらけ。人を見た目で判断する事ほど危ない事はねーだろ。

              第一、悪い奴を決め付けてる。いつか本当の悪い奴に殺されるぜ?

     それに、何を言っても信じないような奴は…誰にも信じてもらえなくなるんだよ。いつの間にか1人だな。

           
 「もういい…水澤、至急職員室へ来い!会議でお前の処分を決める!!」

       
 「はいはい。でも、ひとつ言っておく。俺だけじゃなくて榊の処分も考えた方がいいと思うぜ?」

                 「そんなの、私が決める事だ!」


      ったく。本当に救われない奴だな。生徒を信用してこそ先公が務まるんじゃねーのかっての。

             
 「どうせ篠崎の怪我も、お前がやったんだろ…社会のクズのくせに…」

                         
 「お前の方がクズだろ」

        誰にも聞こえないように小さい声でそう呟いた。当然聞こえなかった様で、先公は歩き出していた。

   でもそれを止める声がした。その声は俺じゃなく、聞いた事の無い声だった。

     
 「先生。先生は水澤さんの事を不良とかクズとか言ってますけど、それは先生の方じゃありませんか?」

           …聞いた事の無い女の声。学校は広いんだから何人か居るだろうけど…違う気がする。

       それに、俺を助けようと発言する奴もそうそう居ない。大抵は自分を守ろうと黙りこくる。

                実際俺等の出来事を全部見てた奴で口を開いてる奴は一人も居ない。

「失礼ですけど、人を見かけで判断するのはクズのやる事です。不良だからって言って、本当に水澤さんがやったんですか?」

            うんにゃ?俺じゃねーよ。榊だ。でも、そんな事言ったって信じて貰えないし、そんな気もない。

                  
 「……君は何年何組の誰だ?顔を見せなさい!」

     いい加減聞いてられなくなったのか、先公が顔を真っ赤にして怒鳴っている。そういや顔が見えねー。

         勿論意図的に顔を見せないようにしてるんだろうけど。その女の声は質問に答えなかった。

  
 「今私の事が何か関係あるんですか?…先生はいつか、生徒からの信用がなくなりますよ。失礼します」

             その後女の声は聞こえなかった。その場を離れたか…紛れ込んだか。

      どっちにしろ、俺的には言いたかった事を言ってくれたからスッキリした。

                            
 「水澤!早く来い!!」

          返事をしないでくっついて行こうとしたら、またまた呼び止める声がした。今度は聞いた声。

                     
 「…ま…待って下さい!!」

                        
  「…何だ、篠崎。何か用か?」

       そう。呼び止めたのは篠崎。この騒ぎの…張本人?いや、被害者?まぁ、そんな感じの奴。

            何でこいつが呼び止めたのかは知らなかったけど、俺には関係無いと思った。

    どうせこいつが俺を助けてくれる訳じゃない。第一きちんと話した事も数回しかない。

                 友達にもなりきれていない。なろうとなんかしてないけどさ。

         だから篠崎の考えてる事が俺には判らなかった。分かりたくも無かったけど、別に。

                   
 「あの…会議、するんですよね?僕も行かせて下さい…」

             
 「話してくれるのか?そうか、有り難い。篠崎も来なさい。水澤!行くぞ!!」

     …?何だ、こいつ?わざわざ会議に混ざんなくても、今ここで言っちゃえば済む事なのに。意味不明。










                
 「篠崎君…それは本当かね?水澤君に言わされてる訳じゃないんだね?」

    校長が居ないからって教頭と学年主任と担任と生徒指導部長とか言う先公と6人で会議室で話してた。ら。

          篠崎はいきなりこの騒ぎの原因は俺じゃない…榊だって言い出しやがった。事実だけどよ。

 「…僕、虐められてたんです。先生達に言う程じゃないと思って黙ってたんですけど、水澤君は助けてくれたんです!本当です!!」

              いやいや…事実をそのまんま述べただけじゃ、信じてもらえないぜ?

   
   「篠崎君。無理に言わなくていいんだ。君も水澤君にやられたんだろう?」

            「違います!どうして分かってくれないんですか!僕は榊君にやられて、水澤君は…!」

       
  「もういい。篠崎は帰りなさい。後は先生と水澤だけで話すから」

                      「だから、水澤君は関係無いんです!」

                             
「篠崎!!」

      先公に怒鳴られて、篠崎はようやく黙って会議室を出て行く事にしたらしかった。

               俺はというとさっきまで会話に全く加わらなかったが、一応庇ってくれた訳だし。一応な。

            
 「悪いね。俺ってこんなんだから?説明しても信じてもらえないんだわ。迷惑かけたな」

     篠崎の肩を叩きながら小声でそう言った。俺の為にわざわざ説明してくれたんだから、それくらいは言わなきゃいけないっしょ。

  
  「…ううん。僕は水澤君が本当は優しいって知ってるよ…僕、力になれなくてごめん…助けてくれたのに…」

         それだけ言って篠崎は帰って行った。…俺が優しいって知ってるって…あいつ…。

         
  「教頭先生。これは校内暴力ですから、厳しい処分をお願いします」

                        
  「うーん…」

      難しそうな顔して唸っちゃってるけど、本当は決まってんだろ?自宅謹慎だって。

            俺を退学になんか出来ないもんな、学校的に。俺の頭を必要としてるんだろ?どうせ。

  「…篠崎君もああ言ってた訳だし…生徒を信じる事も大切ですから、処分は2週間の自宅謹慎と言う事で」

                
  「…分かりました…水澤、聞いてたな?明日から2週間だぞ」

                        
 「はいはい…」

     俺はそれだけ返事して会議室を出た。先公がまだ話している声が聞こえたけど、無視した。










           この学校は構造がおかしくて、会議室は校舎と別館になっている。

   あ。鞄教室じゃんかよ。取りに行くのめんどくせーなー。どうせろくなもん入ってねーけどよ。

       俺の鞄は潰れた学生鞄で、中身はペンケに財布、MDウォークマンに携帯。それから…ピンとか。

             そんなんしか入っていない。教科書はもち学校におきっぱだし、ノートなんか必要ない。

     一応ルーズが机の中に入ってるけど。綺麗好きな方だから机の中やロッカーの中はきちんとしている。

         結構意外がられるんだけどな。性格だから、これは。多分一生綺麗好きのまま。

                今日の騒ぎが昼休みぐらいに起こった出来事だったが、今は既に夕方になっている。

       勿論校舎の中に残っているのなんて部活やってる奴等ぐらいで、他の奴等は下校していた。

           あー…そういや今日、兄貴が一緒に帰ろうって言ってたな。
           ま、いっか。

             この歳になって兄貴と一緒に登下校とか、んなダサい事出来るかっつうの。

    …朝は嫌でも時間が一緒になる訳だから、一緒に来てるけどな。下校まで一緒はあり得ない。

                    
  「あー…兄貴の事だから待ってたりすっかも…ゲロめんど」

        俺は兄貴が居るかも知れないと考え始めた瞬間に、教室へ向かうのが一気に嫌になった。

               俺にとって兄貴はコンプレックスの塊だった。嫌いではない。ただ憎いだけ。

     身長も大きくて、髪が腰くらいまであるのに滅茶苦茶似合っててカッコイイ。声も低くて大人っぽい。

          ただ老け顔な所を除いて、俺は兄貴のほとんどのところに憧れている。

        身長もそこそこしかなくて、長い髪のせいで元々女っぽい俺はもっと女っぽくなってる。

   声もそれなりに低いのだが、兄貴のような低さじゃない。…大人っぽい落ち着いた声になりたいのに…。

            憧れは裏返しとなって、兄貴に対する俺の気持ちは憎しみになっていた。

         でも本当に嫌いな訳じゃない。本当に一緒に話したりするのも別に嫌いではない…けど。

     兄弟が居る奴には分かるだろう。兄貴と比べられるのが嫌だって言う気持ちが。

                それが兄貴のような皆の憧れ的存在の奴なら尚更。

        小さい頃は比べられても気にならなかったが、今となっては比べた奴を睨む毎日。

             
 「兄貴と俺は違う人間だっつの…まじウゼェ…」

           兄貴が居るかも知れない教室の前でそう呟いてしまって、俺はしまったと思った。

                      兄貴は性格が歪んでいて、こういう事を言ったとばれるとウザイ。

       普段からウザイ存在だけど、一層ウザくなる。

            俺とは違って性格が明るい。これは別に羨ましいとは思わないけど…本当に違うところだと思う。

         誰も居ないだろう(兄貴はいるかも知れないけど)教室のドアを開いて驚いた。

     もうとっくに帰ったと思っていた篠崎が窓の外を眺めていたのだ。暗くなった教室に電気もつけずに。

                まぁ、まだ夕方だから電気をつけなくてもそれなりに見えるけど。

       俺は特に話す事もないので話し掛けずに自分の机に近付いて、鞄を取って帰ろうとした。

            そしたら篠崎が振り返って話し掛けてきた。…まさかこいつ、俺の事待ってたのか?

            
  「水澤君。今日は本当にありがとう。僕助けて貰ったの初めてで…嬉しかった」

        そう言いながら篠崎は笑った。……篠崎は笑えるんだ。さっきまで虐められていたと言うのに。

   俺が笑わなくなったのは、いつからだろう…。笑顔なんてとっくの昔、小さい頃になくしてしまった。

                 
「あのね、水澤君は知らないかもしれないけど、僕…水澤君の事ずっと見てたんだ」

     知っていた。俺は人の気配とか視線とかも感じ取りやすく、ずっと見られていた事には気が付いていた。

         
 「水澤君みたいになりたくて、憧れだったんだ。…あの…もし迷惑じゃなかったらなんだけど」

       それだけ言って篠崎は黙ってしまった。俺は話すつもりなんか毛頭になかったので、口を開かずに聞いていた。

            
 「水澤君…迷惑じゃなかったら、僕と友達になってくれないかな…?」

                          
 「…無理。」

   友達なんて要らなかった。俺には必要ない。人は弱いから群れる。群れる人間は弱い人間だ。

         俺だって弱い人間の1人。でも、群れる事で強くなりたいとは思わない。

                 1人でも強くなれる存在になりたいんだ。兄貴のように…親父のように。

      それに小さい頃から1人だった俺は友達の必要性がよく分からなかった。

           つまり、友達になったところでどうすればいいのかも判らないし、どうにかするつもりもない。

    俺の性格を変えようとも思わないし、第一俺と一緒にいる事で危険な目に合う事は分かる。

              そんな風になった時、足手まといになられたんじゃ困る。

       だから俺は友達なんか欲しいとは思わなかった。だから、篠崎の申し込みは受けられなかった。

        
 「…無理、か……うん、分かった…ごめんね、いきなり変な事言って……ありがと…じゃっ」

     泣いているような様子は一切なかったけど、言葉に詰まりながら篠崎はそれだけ言って教室を走って出て行った。

                ……1人で居る事も辛いけど、馴れ合って裏切られた時…もっと、辛くなるだろ?

         俺は篠崎の事なんかこれっぽっちも考えず、自分の事ばかり考えて、篠崎の気持ちに気付かなかったのだ。