Water×Dragon
#0 始まりの時
「誰か…助けて下さい」
俺が何歳の時だったか。まだ親父が生きていた頃……幼稚園生の時くらい。
まだ4歳とかそこら辺の歳の時。俺には"いじめられっこ"というレッテルが貼られていた。
先生は気付かなかった。否、見ていたとしても幼稚園生のただの戯れに見えていたのだ。
小さい子供が数人で固まって遊んでいる。普通の日常だった。
その"いじめられっこ"というレッテルは、小学校にあがっても貼られ続けていた。
俺には兄弟が居る。双子の姉と兄、弟が一人の4人兄弟だ。
双子の姉と兄は俺にとって自慢の存在だ。
幼心に二人を可愛く、カッコいい存在だと見ていた。でもそれは、自慢と同時に憎かった。
姉は可愛い見掛けとは違い、身長もクラスの中では大きい方だったし、家柄力も強かった。
兄はカッコ良く、人当たりも良かった。身長も姉より大きく、力も強く、頭も良い。
たった1歳違うだけだと言うのに、そのたった1歳の差が俺には大きかった。
俺は平均よりも小さく、顔も女っぽかった。生まれつきの細い体で力も無く、いつも姉達に助けてもらっていた。
小学生は子供で、思った事を口に出す。俺が言われる言葉は大抵「弱虫」とかだった。
成長するにつれ虐めは酷くなり、小学校5年にもなれば、叩かれるのは当たり前になっていた。
家での特訓に比べれば何でもなかったが、悪意のこもった力は痛かった。
体が痛みを感じるよりも、心の方が強い痛みを感じていた。
俺は血なのか、霊感も強かったので、周りに不気味がられていた。
その事が原因で虐めに拍車をかけ、小学校を卒業する頃にはいつも独りぼっちになっていた。
エスカレーター式の中学校へ入学する時、俺は自分を変えたくて、髪を染めた。
髪を染めるきっかけになったのは、小6のあの日、ゲーセンで会った不思議な男のせいもあるのかも知れない。
その男は長身で右目を包帯で隠し、長い髪を後ろで一つに縛っていた。
その長い髪は金色で、俺は人目でその男に興味を惹かれた。
ただの金髪だったら興味は持たない。ただ…右目の包帯と、見えてる左目の寂しそうな感じ。
知っている誰かの目に似ているような気がしたんだ。まるで、自分を見ているようだった。
俺はその男に対して、自分もこうならなきゃいけないような気を持ち、髪を染めた。
この頃には兄も髪を青くしていて、俺も青にしろと言われ続けていた。
でも、髪を青く染めると言う行為に俺は…どこか縛られてしまうようなイメージを持っていた。
だから、まだ安定していない今は青くするより、あの男と同じ金色にして自信を持ちたかったのだ。
まぁその事が良かったのか。もしかしたら悪かったのかも知れないが、俺が虐められる事は無くなった。
そして"いじめられっこ"というレッテルも剥がれ、替わりに"不良"というレッテルが貼られた。
ただ髪を染めただけでは不良と呼ばれていなかったのだろうか。
俺は中学に入ってから喧嘩を繰り返し、いつしか皆に恐がられる存在になっていた。
家柄喧嘩は小さい頃から特訓させられ、中学生にもなれば誰にも負ける事は無かった。
小学校の頃と変わらずに、俺はいつでも一人だった。
"不良"というレッテルは別に嫌じゃなかった。それでも全然良かった。
大好きな親父が死んでからの俺は、大切な心臓部を無くして部品のようで、まさに不良品だった。
中学生のある日、衝撃を受けるニュースがあった。
俺の憧れでもあり、尊敬できる存在だったミュージシャンのhideが…自宅で死んだと言うニュースだった。
好きな事など何一つと無かった俺はhideに影響を受け、音楽が好きになった。ギターも覚えた。
俺の人生は全て親父とhideによって成り立っていたのに、2人とも消えた。
俺は何度死のうと考え、手首に刃を添えたろう。
俺はhideが死んだと言う事だけで、拠り所を無くしたように思い、誰にも相談する事も出来ずに死んでいた。
家からも出ようとせず、誰とも話そうとせずに、1人でただただ部屋にこもってhideのCDをかけていた。
しかし、ある日…また衝撃を受けるような特集番組がやっていた。
hideの葬式映像や音楽活動の映像など、色々流していた。でも、一番の衝撃映像が流れた。
hideが病気のファンの子に対し優しく接し、白血病の子の為に骨髄バンクに登録していた。
ファンはhideの死に泣き、そんなhideの優しさにたくさんの涙を零した。
そんな映像がテレビの中で二時間、流れ続けていた。
俺はその映像を見て、知らず知らずのうちに泣いていた。……ただ、何故か涙があふれたのだ。
hideは死んでしまったけれども皆の中に生きていて、病気の子達にも生きる勇気を与えた。
ファンの子も泣きはしたけど、hideの生に対する気持ちを分かっているから、生き続けている。
俺も生きる勇気を貰った。生き続けようと、そう思った。
例え不良品でもいい。俺の中で生き続けている人がいる。
俺の無くした心臓は、また力強く鼓動を打ち始めた。
高校に入学する時も髪を染めたが、当初は何色にしようか迷った。
hideのように赤くしようと思った。俺の中では赤が一番良かった。でも、憧れの親父のような青も良かった。
俺が悩んでいるのを見て、兄が髪を青くするならバイクを買ってやると言ったから、青くした。
本当は兄と間違われるのが嫌だったのだが、青は嫌いではないので良かった。
と言うより、うちの家系柄、男の場合は赤が似合わないのだ。女は何でも合うのに。
だから、もしかしたら最初から選択権など無かったのかも知れない。
まさに運命とでも言おうか。俺は親父と同じ時期にして、髪を同じ青にしたのだった。
その運命の悪戯か…。
俺はこれから起こる色々な事の大変さなど知らずに、入学する高校の校門へ一歩、足を踏み入れたのだった。
そして、誰かの助けを求める声がその時既に……俺の耳には聞こえていた。